まだ途中、でも営業中

深夜三時の公園には、「もう少しだけ頑張りたい人用の空気」があります。

街灯は半分眠っていて、ブランコは風に揺れながら「今日は静かめ営業です」と小さく軋んでいました。昼間はあんなに騒がしい公園なのに、夜になると急に“考えごとの待合室”みたいになります。不思議です。たぶん鳩たちが帰宅モードに入るからだと思います。

ベンチに座ると、缶コーヒーがまだ少し熱かったです。

自動販売機には「あったか〜い」の赤い文字が光っていて、その下のコーンスープが妙に自信満々でした。どうやら今夜のおすすめは、「弱った心への粒入り」らしいです。

私はとりあえず、おしるこを選びました。

理由は特にありません。でも深夜って、ときどき理由より“なんとなく”のほうが正解に近いんです。

ガコン。

缶が落ちる音が、静かな公園に響きました。

すると隣の自動販売機も「ウィーン」と低く鳴って、なんだか会話に参加してきた気がしました。たぶん彼らも夜勤中は少し寂しいんだと思います。機械にも、深夜テンションがあります。

空を見上げると、雲がゆっくり流れていました。

月はぼんやりしていて、「今日は七割くらい本気です」という顔をしていました。完璧じゃない月を見ると、なんだか安心します。毎日ちゃんと光ってるだけで、かなり偉いので。

遠くでは、終電を逃したらしいサラリーマンが電話しながら歩いていました。

「いや、まだ帰宅の途中で……」

と言っていましたが、あの声はたぶん人生にも言っていました。

帰れていない人は、案外たくさんいます。

やる気とか、
自信とか、
昔好きだったものとか。

でも、ときどきこうして、深夜の公園で缶を握っていると、「まあ、まだ途中か」が少しだけ許される気がします。

ベンチの下には、誰かが落とした小さなスーパーボールが転がっていました。

青色で、街灯を反射して、宇宙の端っこみたいに光っていました。

たぶん昼間に子供が落としたんでしょう。

でも、誰にも拾われずに深夜まで残っているところを見ると、もう少しだけここにいたいのかもしれません。

そういう夜もあります。

帰ろうと立ち上がったとき、自動販売機の取り出し口に十円玉が一枚だけ残っていました。

誰かの取り忘れです。

私は少し迷って、そのままにしておきました。

なんとなく、「次に疲れた人へのボーナスステージ」な気がしたので。

さて、夜風が少し冷たくなってきました。

どうやら今夜の予報は、「まだ途中、でも営業中」みたいです。


あなたの人生で、印象に残った思い出をお聞かせください。楽しかったこと、不思議だったこと、ショックだったこと、怖かったことなど。その思い出をモチーフに、物語を生成して、このサイトに掲載します。ご協力いただけた方に、お礼にアマゾンギフト券 2,000 円分をプレゼントいたします。 ご興味ある方は、お問い合わせフォーム よりご連絡ください。あなたのご応募、お待ちしております。