おつかれさまの街
深夜のコンビニに入った瞬間、入口の自動ドアが「おかえりなさい、本日の冒険者さま」と小さくささやきました。気のせいかと思ったけれど、床のタイルがきらっと光っていたので、たぶん歓迎されていたんだと思います。冷蔵コーナーではプリンたちが整列していて、「今日はやわらかめの希望、入荷してます」と誇らしげでした。私はとりあえず肉まんをひとつ手に取りました。袋の上からでも、なんだか「大丈夫」が湯気になっていました。
レジ横では、からあげ棒が夕陽みたいな色で並んでいて、その横のホットスナックケースには「人生、たまにはサクサクでいこう」と貼り紙がしてありました。誰が書いたのかは分かりません。でも、その文字の最後に小さくハートがついていたので、きっと優しい人です。あるいは店長です。
外へ出ると、夜風がラムネみたいにシュワっとしていました。街灯はオレンジ色の飴みたいに道を照らしていて、自転車に乗った高校生たちが笑いながら坂道を下っていきます。その笑い声が遠くで跳ねて、川沿いの空気を少しだけ青春味にしていました。どうやら今夜は、「なんとなく未来が悪くない日」らしいです。
橋の上では、スーツ姿のおじさんがひとりでシャボン玉を飛ばしていました。疲れているのか、元気なのか、その両方なのかは分かりません。でも、夜空に浮かんだシャボン玉が街灯を反射して、小さな惑星みたいに光っていたので、たぶん間違ってはいないんだと思います。通りすがりの犬まで立ち止まって見ていました。犬にも、感動する夜くらいあります。
帰り道、自動販売機で温かいココアを買いました。ボタンを押した瞬間、「今日もおつかれさまです」と機械音声が流れたのですが、なぜかその日は少しだけ本気で言ってくれている気がしました。缶はびっくりするほど熱くて、冬の真ん中で握手しているみたいでした。
部屋に戻ると、机の上に開きっぱなしのノートがありました。そこには、自分の字で「焦らなくても、ちゃんと進んでる」と書いてありました。いつ書いたのか覚えていません。でも、深夜の自分はときどき未来の自分に手紙を書きます。昼間の自分より、少しだけロマンチストなので。
窓の外を見ると、マンションの明かりがぽつぽつ浮かんでいました。どの部屋にも、それぞれの物語とか、お風呂上がりとか、食べかけのアイスとか、誰にも見せないため息とかがあるんだろうなと思うと、世界は案外あたたかいのかもしれません。
今日の目標は、「眠る前に、自分を少しだけ許すこと」。うまくできなかったことも、言えなかったことも、とりあえず毛布の横に置いておきましょう。明日の朝には、意外と丸くなっているかもしれません。
さて、電子レンジが「チン!」と鳴りました。どうやら夜食のタイミングです。宇宙もたぶん、それを待っていました。
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